コラム 犬猫の認知症について

皆さんこんにちは。今回は「認知症」について載せようと思います。

動物医療の進歩により、以前に比べてペットの犬猫の平均寿命が延びました。
長生きしてくれることは嬉しい事ですが、高齢になると気になる事のひとつに「認知症」が挙げられます。ペット達が認知症にならずに健康寿命が延びてくれることがいいですよね。

その為に、今回は皆さんに認知症について知ってもらい、私達飼い主がペットにしてあげられることをお伝えしようと思います!

認知症とは脳の老化に関連した行動の変化です。認知の低下、刺激に対する反応の低下、学習と記憶の損失などが症状として挙げられます。具体的な症状を以下に挙げてます。あなたのペットに当てはまる項目はありますか?

・見当識障害:迷子になる、ドアが開くのを待つときに、蝶番のほう(開かない方)を見ている、散歩から帰るときに家の前を通り過ぎてしまう、など。

・人間や他の動物との関わり合いの変化:遊びが減った、関心を示さなくなった、帰宅した飼い主さんを他人と間違えて吠えた、など。

・睡眠・行動の変化:昼夜逆転した、寝ている時間が増えた、夜間徘徊、など。

・学習したことを忘れてしまった:トイレの失敗、オスワリなどの合図への反応が悪くなった、など。

・活動性の変化:今まで好きなことをしなくなった、歩き回る、今までやらなかったことをやるようになった、など。

・不安:飼い主さんがいなくなると鳴く、夜中にちょっとした物音で起きてそわそわする、不安から攻撃的になる、など

このような認知機能の低下の症状が7歳くらいから少しずつ見られてきます。
まずはもっと細かく記載された質問表に回答して、現在どのような状況かを把握しましょう。
(質問票は病院で用意してありますので、ご希望の方はお気軽にお申し付けください。)

質問票に当てはまる項目が少なくても、数か月後に同じ項目をチェックして進行しているか判断します。毎日一緒にいると、意外とちょっとした進行に気付かないこともあります。
このような質問票を使って客観的に判断することで早期発見につながります。「夜鳴きがひどいから鳴き止ませたい」「トイレを忘れてしまったから、またできるようにしつけたい」など認知症は悪化してからどうにかしようと思っても、その症状はなかなか改善しません。
認知症は早期の対策をして悪化させないことが大切なのです。その為に、飼い主さんには早期にペット達の変化に気付いてもらいたいです。

ちょっと進行してきたな、とか、すでに沢山の項目が当てはまっているな、という場合、その子にやってあげられる事を相談していきましょう。まずは環境の設備です。
ペット達が安心して過ごせる環境づくり(滑らない床、行きやすいトイレ、適度な運動など)は心身共に良い刺激となります。そしてご飯や知育トイなどを使って脳のトレーニングをしましょう。また、認知症には抗酸化成分の摂取が有効であることが判明しています。
サプリメントや適した食事で脳の老化を防ぎましょう。他にも夜鳴きや不安などに対してはお薬の提案をする場合もあります。

当院ではシニアクラスを開催しており、このような「認知症」の予防のメニューも用意しています。シニアライフに向けてペット達にやってあげられる事、準備できる事がお勉強できます。もちろん診察の時でも色々とアドバイス致します。皆さんと、皆さんのペット達が楽しいシニアライフを過ごせるようにサポートしていきたいと思います。
興味があったらお気軽に相談してくださいね☆

シニアクラスの開催予定はこちらから

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 獣医師 鵜飼

コラム 症状と徴候、急性疾患と慢性疾患

 ワンちゃんやネコちゃんにある病気が見つかったときに、以下のような質問をよくいただきます。

『病気ってこんなに急に起こるものなのですか?』

 では、我々人間の場合を考えてみましょう。
例えば、腸に大きな病気があるとします。何日も『なんだかおなかが張っているときがあるなあ』と感じながら、ただ食欲はないこともないし、そんなこともあるのかなと考えながらいつも通り生活をしていて、何週間何か月もしてからとうとう吐き気や下痢が出てくる。そこで病院に行くと腸に病気が見つかる。もっと早く病院に行きましょうよ!という感じですが、人間の場合こんな流れになることでしょう。

 一方、動物たちはどうでしょうか。
彼らにとっての『なんだかおなかが張っているときがあるなあ、でも食欲はないこともない』という状態は、本人たちにはわかっていたとしても私たち人間からは見て取れません。吐いたり下痢したり、見た目にはっきりとわかるほどになって初めて、我々人間には何かが起こっているということが分かるようになるのです。

 前者、つまり人間には見て取れない状態を『徴候』、そして後者、つまり見た目にはっきりとわかる状態を『症状』と定義できます。

『でも、例えば風邪をひいたときは前日まで何事もなくても突然くしゃみや咳などが起こるし、食中毒でも前ぶれなしにいきなり下痢や吐き気が起こりますよね?』

という疑問があると思います。 病気には、急性のものと慢性のものがあります。
急性の病気とは経過が短いもの、簡単に言うと突然起こってあまり長続きしないものです。 一方慢性の病気とはゆっくりと進行し、長期にわたり持続する病気を指します。ただし、その本質は決して経過の長さだけではないのです。

例として、急性腸炎と慢性腸炎を比較してみましょう。

 急性腸炎は、例えば病原体の感染などで(潜伏期間はありますが)急に起こります。そのため、徴候と症状がほとんど同時に押し寄せてきます。お腹が張るなあと思ったら、すぐ下痢になる。という感じです。そのため、急性腸炎は症状が出たときに気づけば、それがすでに早期発見となり、放っておくことさえしなければ早期治療となるため、治療がうまくいけば早いうちに治すことができるでしょう。

 一方、慢性腸炎は、ゆっくりと始まります。最初は徴候すらなく腸に病変が現れ、そのうちなんとなくお腹が張るなあと徴候を感じるようになり、最終的に下痢や嘔吐のような症状が見られるようになっていきます。当然、ここまでくるとすでにかなり進行していることになります。つまり慢性腸炎の場合、症状に気づいたときにはすでに早期発見の機会を逃しており、末期に至っている可能性が高いのです。

 さらに、慢性の病気の原因は通常体外ではなく、体内にあります。例えばそれは遺伝子であり、遺伝子がそのような病気を起こすようにプログラムされているのです。食事や運動などの生活習慣もそうであり、肥満や長年にわたる関節への負担などが該当します。このような体の中からくる病気こそ慢性の病気、耳なじみのある言葉でいうと『持病』です。基本的には持病を根本から治すことはできず、進行を遅くしたり、生活に支障を生じないように緩和していくことが治療となります。

 その病気が急性なのか慢性なのかは、症状を見るだけではわかりません。繰り返しになりますが、急性の病気であれば症状が出てからで治療開始は遅くありません。しかし、慢性の病気の治療開始は症状が出てからでは遅いのです。人間もそうですが、症状が出ていないうちに健康診断を行う理由はここにあります。

健康診断については別の記事でも紹介していますので、ぜひ読んでみてください。

コラム 健康診断①定期健康診断の意義

コラム 健康診断②血液検査

コラム 健康診断③レントゲン検査

コラム 健康診断④超音波(エコー)検査

コラム 健康診断⑤尿検査

下落合、目白、椎名町、イヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院  院長 獣医師 田草川


コラム 涙焼け

犬の涙焼け サムネイル

 こんにちは。今回は、診察でよく相談される「涙焼け」について書こうと思います。
「涙焼け」は涙が多くて、その結果目の下や周りの毛が赤茶色に変色した状態を指します。犬でも猫でも見られますが、特に犬で多く相談されます。
 この「涙焼け」は、本来であれば目に留まっているべき涙が目から出てしまう「流涙症」が原因です。そのせいで涙が流れ出て目の下や周りの毛が涙で濡れて毛が変色します。この涙焼けを解決するには、なぜ流涙症が起きているかをまず突き止める必要があります。流涙症の原因は、大きく分けて以下の3つに分類することができます。

①涙の量が増えている状態
②涙が正しい排泄路から出ていけない状態
③目の表面に涙が保持できない状態

①は例えば逆さまつげや傷など、目に刺激があると涙が増える状態です。私達も目が痛いと涙が出ますよね。①が原因の流涙症の場合は、目の刺激になるものを無くす必要があります。傷があれば傷を治し、逆さまつげが刺激になるようであれば逆さまつげを抜く必要があります。

②は鼻涙管、という目から鼻に抜ける管がうまく機能していない状態です。管が詰まってしまったり、炎症で癒着してしまったりした結果涙が鼻に抜けずに流れる状態です。これに関しては、閉塞した管を開通させる必要があります。

③はまぶたが腫れていたり、内側に入り込んでいたりすることでまぶたの毛が目の表面に接してしまい、毛を伝って流涙します。また、涙の成分の1つである「油分」の不足が原因で、目の表面の水分に油で蓋をすることができずに流涙するケースもあります。これに関してはまぶたの腫れを抑える治療をしたり、内科的に治療できない場合は手術でまぶたの内反を整復する場合もあります。油分が不足している場合は点眼で油分を補ったり、油分の分泌を促すようにマッサージをしたりします。
 この中の、どのパターンに当てはまるのかを見極めたうえで適切な治療を実施する必要があります。

犬の涙焼け

ちなみに、実際に診察しているとどのケースが多いかというと、、、
・猫は風邪を引いたことにより結膜炎を起こして鼻涙管が細くなったり閉塞して流涙するケースが多いと感じます。また、猫種(アメリカンショートヘア―やスコティッシュホールドなど)によっては元々下まぶたが内反していて流涙するケースも多くみられます。
・犬では下まぶたが内反して毛を伝っているケースが多いです。その原因は子犬でそのような形態になっていて子犬のころから涙焼け、のケースと、アレルギーやアトピーによってまぶたが腫れることで内反するケースが多いように感じます。他に、油分不足によるものもよく診察で見かけます。

 涙焼けは見た目の問題なだけでなく、毛が濡れたままになると皮膚炎になったり、その流涙の原因によっては目にトラブルが起きてくるケースもあります。もし涙焼けが気になったら、どのタイプの流涙症でどのような治療オプションがあるのかを診察で相談できますので、お気軽にご相談ください。

下落合、目白、椎名町、イヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 獣医師 鵜飼

コラム 犬と猫の風邪

12月に入って寒くなってきました。この時期私達人間は「風邪ひかないように」気を付けますね。犬と猫にも風邪はあるのでしょうか?

人間で「風邪」とは上気道にウイルスや細菌に感染することで起こる症候群を指します。これと同様の病態が犬と猫にも存在します。

 犬で「風邪」に相当するものは「犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)」です。原因はパラインフルエンザウイルスやアデノウイルス、気管支敗血症菌などの感染によります。主に見られる症状は「咳」です。他にくしゃみ、鼻水、発熱、ひどくなると食欲の低下や呼吸困難などが出ることもあります。犬の風邪は子犬での発症が多いです。子犬を家に迎え入れたときに「あれ?咳してる?」と気付いて見つかることが多いです。成犬ではあまりケンネルコフは見られません。成犬で咳をしている場合は、別の原因で咳が起きていることが多いです。

 猫で「風邪」に相当するものは「猫上部気道感染症」です。原因はカリシウイルスやヘルペスウイルス、クラミジアや細菌などです。多く見られる症状はくしゃみ、鼻水、目やにで、悪化すると発熱や食欲の低下などが見られます。猫ではヘルペスウイルスやカリシウイルスは症状が改善しても体の中に潜在し続けます。その為、成猫になっても季節の変わり目や引っ越しなどのストレスなど様々な原因によって免疫力が低下すると症状が再発します。

 犬も猫も、まずは診察で症状を見て「風邪」と仮診断します。原因を確定する必要がある場合には「PCR検査」で病原体を特定します。治療はその症状や原因に合わせて投薬等で治療していきます。予防はワクチン接種と、感染している犬・猫との接触を避ける事です。犬と猫の風邪は飛沫感染するので、多頭飼いをしている際には部屋を分けるなどの措置が必要です。また犬猫達の免疫力が保てるように適した飼育環境を整えることが必要です。

 私の飼っている猫は迎え入れたとき、鼻水ズルズルの目やにだらけの風邪っぴきの子猫でした。そのため、この季節の変わり目は風邪をぶり返す可能性が高いのでいつも以上に健康状態には気を付けてあげています。寒くならないように部屋は暖房をつけていますが、空気が乾燥しますね。鼻やのどの粘膜が乾燥しすぎないように加湿器で空気を加湿したり、洗濯物を室内干しして湿度を保っています。

飼い主さんも犬・猫達も風邪をひかないように栄養をしっかり採って適した環境を整えて、寒い冬を健康に乗り越えましょう!

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
獣医師 鵜飼

コラム 犬と猫のデンタルケアについて

皆さんはペット達の歯のケアを十分できていますか?
自信のない方も多いですよね。実は3歳の時点で70%ほどの犬と猫が歯周病になっているというデータがあります。これほど多いにも関わらず「臭い」「痛い」などの症状がこの時点では少ない為、気づかれていないケースが多いのです。

歯周病の発見

 歯周病がある事に気がつくのは、ワクチンなど別の要件で動物病院の診察をした際に、気づかれるケースが多いです。歯周病が進行していくと、口臭がひどくなったり、痛みが出ることもあります。もっとひどくなると歯の根元が膿んで顎の骨が溶けてしまって骨折したり、鼻の方に膿が流れて鼻水やくしゃみが増えたり、怖い症状に進行することがあります。こうなる前に予防ができるといいですよね。

歯のケア

 とは言っても、なかなか歯のケアって難しいですよね。口を触ると逃げていく、歯ブラシをおもちゃにして歯磨きにならない、歯を磨こうとしたら咬まれてしまった、など沢山の失敗談を聞きます。私達は歯を磨かないと歯周病になってしまうことを知っているので歯を磨きますが、犬・猫達はなぜ歯を磨く必要があるのか知りません。なので、最初から歯磨きを受け入れられなくて当然なんですね。

 ではどのようにすればいいのでしょうか?まず一番大切な事は焦らない事。ゆっくりと順を追って犬・猫達に体験させていくことで、歯磨きというケアが受け入れられるものになります。まずは口・歯を快く触らせてくれるように練習をしましょう。それから歯ブラシを使う練習をします。歯磨きの一番の目的は、歯垢を取ることです。歯垢は歯磨きで取れます。この歯垢は時間が経つと歯石になります。

歯石ってどんなもの?

 ご自身のペットの歯を見たときに、歯の表面に「石」みたいなものがついていたら、それが「歯石」です。歯石は歯磨きでは取ることができず、私達が歯医者さんで治療してもらうように超音波の機械で取り除きます。すでに歯石がついてしまっている場合はそのようにして歯石を除去できますが、歯磨きをしないとまた歯石がついてしまいます。すでに歯石がついていても、歯石除去処置の後にスムーズに歯磨きが出来るように歯磨きの練習をしておくといいですね。歯磨きの練習方法は、当動物病院のYou Tube動画で歯磨きの練習方法を2回に分けて配信していますので是非そちらを参考にしてみてください。

歯磨きpart1

歯磨きpart2

 歯垢を取り除くには歯ブラシが最も適していますが、デンタルケアは歯磨き以外にも色々あります。歯磨きが出来る子は歯磨きと併用することで、より効果を高める事ができます。歯磨きが出来ない子には少しでもケアをしてあげた方が良いので、その子に合った他のデンタルケアを取り入れることをお勧めします。歯磨きガムやデンタルジェル、おやつタイプや飲み水に混ぜるタイプなど様々な製品があります。

 ペット達がずっと美味しくご飯を食べられるために、一緒に楽しくデンタルケアをしていきましょう。来院の際には、是非ご相談ください。

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
獣医師 鵜飼

コラム 健康診断⑤尿検査

今回からは、必ずしも直接病気の診断にはならないけれども、血液検査・X線検査・超音波検査と組み合わせることで診断をサポートする検査についてご説明いたします。

最初にご紹介する検査は尿検査です。

尿はご存知の通り、腎臓において血液から作られ、体の中で余分となったものや老廃物を水とともに体の外へと捨てるためのものです。
重要なことは尿の中に溶けているものはふつう、体の中で余分にあるものだということです。

尿の中にあるもので、尿検査で見つけることのできるものとして糖(ブドウ糖)ビリルビンという物質があります。
つまり尿の中にこれらが出てきてしまうということは、体で糖とビリルビンが余分にあることを意味します。
糖が余分にあるということは、『糖尿病』が疑わしいですね。
ビリルビンは肝臓で分解される老廃物なので、ビリルビンが余分にあるということは肝臓が悪くて分解できていない、つまり『肝臓病』が疑われるということですね。

また、尿は尿を作り出す内臓である腎臓自体の異常も映し出すことがあります。
腎臓は体の需要に合わせて、尿の中へと捨てられそうになった水とタンパク質をリサイクルします。
腎臓が悪くなってしまうと、このリサイクルが機能しなくなり、尿の中に水とタンパク質がたくさん捨てられてしまうようになります
水がたくさん捨てられると尿が薄くなり、真水と比べた尿の濃さが低くなる『低比重』な尿が作られるようになります。
タンパク質がたくさん捨てられると、『タンパク尿』となります

最後に、尿は腎臓から尿管を通って、膀胱に貯められ、尿道を通って排泄されます。
腎臓、尿管、膀胱、尿道は『尿路』と呼ばれますが、これらのいずれかにダメージがあると出血することがあり、いわゆる『血尿』となります。
膀胱炎で血尿となるのは有名ですが、腎臓・尿管・尿道の炎症や腫瘍、結石でも出血することがあります。

このように尿検査では、体で余分に作られた物質から糖尿病や肝臓病、水やタンパク質から腎臓病、血尿から尿路のダメージについての情報を与えてくれるのですが、これらは尿検査だけでは診断することはできず、やはり血液検査・X線検査・超音波検査と組み合わせることで初めてどこが異常なのかを診断することができようになるのです。

当院では尿検査以外の、診断サポート検査として、皮膚科検査、アレルギー検査(血液検査)、甲状腺ホルモン検査、眼科検査、血圧検査、心電図検査、心臓病の血液マーカー検査、便検査、歯科検査などを行うことができます。

次回は、健康診断を定期的に行うことの大切さについて解説させていただきます。

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 院長 田草川

コラム 健康診断④超音波(エコー)検査

前回までは健康診断の中で、血液検査と、X線(レントゲン)検査についてのお話をしてきました。
今回は超音波(エコー)検査についてのお話をしようと思います。

 まず、超音波とは、X線のようなエネルギーを持つ物質のビームではなく、『音波』、つまり振動の波の一種であり、音として聞こえるよりも細かい波長のものを指します。超音波検査とは、『プローブ』と呼ばれる機械の先端からこの細かい波長の音波=超音波が発生し、物体の表面にぶつかって跳ね返ってきた超音波を同じ機械で拾うことで、機械から物体までの距離を測定する検査なのです。さまざまな内臓から跳ね返ってきた超音波により、それぞれの内臓までの距離を測り、それを画面上に描くことで体の断面図を作りだすことができるのです。

 超音波検査では体の断面を見ることができるため、X線検査ではわからなかった水と内臓と腫瘍などのできものとの区別をつけることができます。つまり内臓の中身を見ることができるのです。

 また、超音波は血液の中を流れる細胞からも跳ね返ってくるため、超音波検査では血液の流れを知ることができます。さらに超音波はプローブから常に発生していますので、動いている臓器について、その動きをリアルタイムに見ることもできます。この2つの特性から、超音波検査は常に動いて血液を送り出している心臓の検査が得意なのです。

しかし、超音波には2つ苦手なものがあります。


 1つ目は肺と骨の検査です。超音波を完全に反射してしまうものにぶつかると、それより先にあるものまで超音波が届かず、表面しか見ることができないのです。肺に含まれる空気と骨がこれに当たります。胃や腸にもガスが含まれていると、それより深い部分は見ることができません。

 2つ目として、超音波検査は体の断面図を見る検査ですので、X線検査のように一枚の写真にいくつかの内臓がいっぺんに写される検査とは違って、体全体を検査するには時間がかかります。そのため、その間動物にはじっとしていてもらわなければならないのです。この理由から、超音波検査には時に鎮静薬が必要となる場合があります。

 また、これはX線検査と超音波検査の両方に言えることですが、肝臓や腎臓の大きさ・形・数がおかしい、できものがあるかどうかといった検査はこの2つの検査によって知ることができますが、『どのくらい異常なのか』については分かりません。この部分は数値で知ることのできる血液検査が得意な分野ですね。

 このように、血液検査・X線検査・超音波検査はどれか1つではなく、組み合わせることで病気や生き物の状態を知ることができる検査なのです!

 ここまでの3つが、健康診断のメインとなる検査の説明でした。

 次回からはやや特殊となる検査について、少しだけご説明させていただきます。

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 院長 田草川

コラム 健康診断③レントゲン検査

前回、健康診断の中で、貧血・炎症・出血を起こす病気や、肝臓・腎臓・栄養の状態を調べることのできる血液検査についてのお話を載せました。
今回は血液検査が苦手な部分を調べることのできる検査の一つ、X線(レントゲン)検査についてお話をさせていただきます。

まずX線とは、エネルギーを持つ粒子によるビーム、いわゆる放射線の一種です。
X線はさまざまな物質を貫通することができ、生き物の体も貫通することができます。
この事を利用し、体を貫通したX線をフィルムに焼き付けることで、体の中を透かして見ることのできる写真、つまりX線写真を作るのがX線検査の仕組みです。

このように体の中を透かして見ることのできるX線検査は、内臓の『形、大きさ、数』を調べることが得意です。
例えば、血液検査で肝臓や腎臓の状態を知ることができることを前回お話ししましたが、肝臓や腎臓の大きさや形は血液検査だけではわかりません。
血液検査での肝臓や腎臓の数値が高いことと、X線検査による内臓が大きい/小さい、あるいはおかしな形をしていたり、あるいはあるはずの内臓がない、ないはずのできものがある、といった情報を組み合わせることで、潜んでいる病気に一歩近づくことができることがあります。

さらに、特にワンちゃんの心臓の病気がある程度進むと、心臓が大きく拡大してくることがありますが、これは血液検査では全く分からない場合も多いのです。
一方、X線検査は内臓の形や大きさを調べる検査ですので、心臓の拡大を見つけるのは得意です。

また、これは次回以降にご説明しますが、超音波(エコー)検査は、空気が入っている臓器(肺など)や骨の検査が苦手です。
一方で、X線検査では空気や骨はくっきりと写りますので、肺や骨の病気を見つけるのにも適していると言えます。

しかし、X線検査にも苦手な分野があります。

X線検査は、水(尿、胃液や腸液、血液など)と内臓と腫瘍などのできものを区別できないのです。
これは、多くの内臓や腫瘍にもたくさんの水分が含まれていて、X線検査ではこれら3つはいずれも『水』と判断されてしまうためです。
そのため、内臓から離れたところにある腫瘍を見つけることはできるのですが、内臓の中にある腫瘍などを見つけることは苦手なのです。

さらに、X線写真はカメラで撮る写真と同じで、その瞬間だけをとらえている検査です。
そのため、内臓の動き、例えば心臓がどのように動いているかなどを知ることはできません。

そこで出番となるのが、体の断面図や内臓の動きを見ることのできる超音波(エコー)検査です。

次回は超音波検査についてご説明させていただきます。

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 院長 田草川

コラム 健康診断②血液検査

当院では、ワンちゃん、ネコちゃんに、年一回~二回の健康診断をおすすめしています。
ヒトと同じように定期的に検査をすることで、一見健康にみえるどうぶつたちの異常が見えてくることがあります。
健康診断の目的は、『早期発見』『早期介入』、つまり病気が症状として明らかになってくるよりも前にその兆しを見つけ、今後問題となりそうな部分について早い段階から目をつけておく、場合によってはその原因を追及して治療につなげていくことにあります。

健康診断における基本的な検査には、日常的に行っている身体検査以外にも、以下のものがあります。

  • 血液検査
  • X線(レントゲン)検査(胸部、腹部)
  • 超音波(エコー)検査(心臓、腹部)
  • 尿検査
  • その他の特殊な検査

今回は健康診断の項目の1つである、血液検査について少しお話させていただきます。

血液検査は、ヒトの健康診断でももちろん通常含まれていますし、健康診断以外でもよく行われる検査の一つです。
しかし、血液を見ただけでなぜ内臓の病気がわかるのかは、普段あまり意識されないところかもしれません。

血液検査では実際に何を測定しているのかというと、これは大きく二つに分けられます。

  1. 血液中の細胞成分の数や種類
  2. 血液中の液体成分に含まれる物質(酵素、栄養素、老廃物)

血液の細胞成分とは、酸素を運ぶ赤血球や、感染症や炎症といった免疫に関与する白血球、出血を止めるのに必要な血小板を指します。
この数や種類の変化によって、貧血、炎症、出血を生じるような病気が反映されるわけです。
さらに細かいパラメータを見ることで、どのようなタイプの貧血なのか、どのような炎症のパターンなのかについても大まかに知ることができます。

一方、血液の液体成分に含まれる酵素、栄養素、老廃物を測定すると、かなりおおざっぱに書いてしまいますが、肝臓・腎臓・栄養(タンパク質、脂質、糖質、ミネラル)の状態が分かります。
これによって、外からは見えない内臓の状態を調べるのです。

しかし、生き物の体には肝臓や腎臓以外にも、たくさんの部分がありますよね?
肺、心臓、脳、胃腸はもちろん、脾臓や膵臓、膀胱といった臓器もありますし、骨、筋肉、脂肪もれっきとした体の構成要素です。
実は血液検査は、こういった臓器の変化を調べるのがちょっと苦手なのです。
そこで、こうした肝臓や腎臓以外の臓器の変化を見つけるために、血液検査以外のX線(レントゲン)、超音波(エコー)、尿検査の出番となるわけです。

これらの検査については、次回以降書かせていただきます。

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 院長 田草川

コラム 健康診断①定期健康診断の意義

今回は、定期健康診断の意義についてお話いたします。

 健康診断は、今現在における健康状態を知る、つまり病気を見つけるための「早期発見」としての側面とは別に、その子の正常な状態の検査所見を知っておく「医療記録」としての側面があります。

 検査、とくに数値で表されるような血液検査のようなデータには、「基準値」つまりその範囲内にある場合には正常であると判断される数値があります。この基準は、たくさんの健康な同種動物(イヌ、ネコそれぞれ)から得られたデータです。

例えば、腎臓機能の検査としてよく使用されるクレアチニンのイヌの基準値は、当院の検査機器では「0.5~1.8」mg/dlとなっています。大まかに、1.8mg/dlを超えると腎臓機能が病的に低下していると判断されるわけです。それでは、昨年までこのクレアチニンの値が0.6mg/dl程度であったのが、今年の検査では1.2mg/dlだったとします。1.2は基準の範囲内ですが、これは問題ないと言えるのでしょうか。

 基準値には、個体ごとの「個体基準値」という範囲があります。これは必ずしも一般的な基準範囲と一致するとは限りません。上の例のように、クレアチニンは0.6mg/dlが基準であったのが、イヌの基準範囲である1.8mg/dl以下であるとはいえ、1.2mg/dlと2倍になってしまっている状態です。筋肉量が増加したなどのクレアチニンの影響を及ぼす他の要因があることも考えられますが、このような場合には腎臓機能が少なくとも昨年よりも低下している可能性があると考えられます。

 それでは、この例のイヌが今年初めて検査を行い、このクレアチニン1.2mg/dlという数値を見たら、どうでしょうか。獣医さんによっては『ちょっと高めかな・・・?』と勘づかれることもあるかもしれませんが、基準値内です。『腎臓は問題ありません!』と判断されてしまうかもしれません。実際には1年で2倍になっているわけですから、来年また検査をするときにはとっくのとうに腎臓の治療を始めなければならないレベルにまで悪化している可能性もあります。

 このように、1回だけの検査では我々獣医師も異常に気づけないこともあり、一方で健康な状態から時間的経過を追っていることで異常値になる前にその異常に気付けることもあります。これが、健康である可能性の高い若いころ、具体的には1~2歳くらいに一度「医療記録」を取り、わずかな変化が生じてくるタイミングを見逃さないように行う「定期健康診断」が重要となる理由なのです。

下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 院長 田草川