聖母坂どうぶつ病院コラム
治療・予防

コラム 症状と徴候、急性疾患と慢性疾患

 ワンちゃんやネコちゃんにある病気が見つかったときに、以下のような質問をよくいただきます。

『病気ってこんなに急に起こるものなのですか?』

 では、我々人間の場合を考えてみましょう。
例えば、腸に大きな病気があるとします。何日も『なんだかおなかが張っているときがあるなあ』と感じながら、ただ食欲はないこともないし、そんなこともあるのかなと考えながらいつも通り生活をしていて、何週間何か月もしてからとうとう吐き気や下痢が出てくる。そこで病院に行くと腸に病気が見つかる。もっと早く病院に行きましょうよ!という感じですが、人間の場合こんな流れになることでしょう。

 一方、動物たちはどうでしょうか。
彼らにとっての『なんだかおなかが張っているときがあるなあ、でも食欲はないこともない』という状態は、本人たちにはわかっていたとしても私たち人間からは見て取れません。吐いたり下痢したり、見た目にはっきりとわかるほどになって初めて、我々人間には何かが起こっているということが分かるようになるのです。

 前者、つまり人間には見て取れない状態を『徴候』、そして後者、つまり見た目にはっきりとわかる状態を『症状』と定義できます。

『でも、例えば風邪をひいたときは前日まで何事もなくても突然くしゃみや咳などが起こるし、食中毒でも前ぶれなしにいきなり下痢や吐き気が起こりますよね?』

という疑問があると思います。 病気には、急性のものと慢性のものがあります。
急性の病気とは経過が短いもの、簡単に言うと突然起こってあまり長続きしないものです。 一方慢性の病気とはゆっくりと進行し、長期にわたり持続する病気を指します。ただし、その本質は決して経過の長さだけではないのです。

例として、急性腸炎と慢性腸炎を比較してみましょう。

 急性腸炎は、例えば病原体の感染などで(潜伏期間はありますが)急に起こります。そのため、徴候と症状がほとんど同時に押し寄せてきます。お腹が張るなあと思ったら、すぐ下痢になる。という感じです。そのため、急性腸炎は症状が出たときに気づけば、それがすでに早期発見となり、放っておくことさえしなければ早期治療となるため、治療がうまくいけば早いうちに治すことができるでしょう。

 一方、慢性腸炎は、ゆっくりと始まります。最初は徴候すらなく腸に病変が現れ、そのうちなんとなくお腹が張るなあと徴候を感じるようになり、最終的に下痢や嘔吐のような症状が見られるようになっていきます。当然、ここまでくるとすでにかなり進行していることになります。つまり慢性腸炎の場合、症状に気づいたときにはすでに早期発見の機会を逃しており、末期に至っている可能性が高いのです。

 さらに、慢性の病気の原因は通常体外ではなく、体内にあります。例えばそれは遺伝子であり、遺伝子がそのような病気を起こすようにプログラムされているのです。食事や運動などの生活習慣もそうであり、肥満や長年にわたる関節への負担などが該当します。このような体の中からくる病気こそ慢性の病気、耳なじみのある言葉でいうと『持病』です。基本的には持病を根本から治すことはできず、進行を遅くしたり、生活に支障を生じないように緩和していくことが治療となります。

 その病気が急性なのか慢性なのかは、症状を見るだけではわかりません。繰り返しになりますが、急性の病気であれば症状が出てからで治療開始は遅くありません。しかし、慢性の病気の治療開始は症状が出てからでは遅いのです。人間もそうですが、症状が出ていないうちに健康診断を行う理由はここにあります。

健康診断については別の記事でも紹介していますので、ぜひ読んでみてください。

コラム 健康診断①定期健康診断の意義

コラム 健康診断②血液検査

コラム 健康診断③レントゲン検査

コラム 健康診断④超音波(エコー)検査

コラム 健康診断⑤尿検査

下落合、目白、椎名町、イヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院  院長 獣医師 田草川