今回は、定期健康診断の意義についてお話いたします。
健康診断は、今現在における健康状態を知る、つまり病気を見つけるための「早期発見」としての側面とは別に、その子の正常な状態の検査所見を知っておく「医療記録」としての側面があります。
検査、とくに数値で表されるような血液検査のようなデータには、「基準値」つまりその範囲内にある場合には正常であると判断される数値があります。この基準は、たくさんの健康な同種動物(イヌ、ネコそれぞれ)から得られたデータです。
例えば、腎臓機能の検査としてよく使用されるクレアチニンのイヌの基準値は、当院の検査機器では「0.5~1.8」mg/dlとなっています。大まかに、1.8mg/dlを超えると腎臓機能が病的に低下していると判断されるわけです。それでは、昨年までこのクレアチニンの値が0.6mg/dl程度であったのが、今年の検査では1.2mg/dlだったとします。1.2は基準の範囲内ですが、これは問題ないと言えるのでしょうか。
基準値には、個体ごとの「個体基準値」という範囲があります。これは必ずしも一般的な基準範囲と一致するとは限りません。上の例のように、クレアチニンは0.6mg/dlが基準であったのが、イヌの基準範囲である1.8mg/dl以下であるとはいえ、1.2mg/dlと2倍になってしまっている状態です。筋肉量が増加したなどのクレアチニンの影響を及ぼす他の要因があることも考えられますが、このような場合には腎臓機能が少なくとも昨年よりも低下している可能性があると考えられます。
それでは、この例のイヌが今年初めて検査を行い、このクレアチニン1.2mg/dlという数値を見たら、どうでしょうか。獣医さんによっては『ちょっと高めかな・・・?』と勘づかれることもあるかもしれませんが、基準値内です。『腎臓は問題ありません!』と判断されてしまうかもしれません。実際には1年で2倍になっているわけですから、来年また検査をするときにはとっくのとうに腎臓の治療を始めなければならないレベルにまで悪化している可能性もあります。
このように、1回だけの検査では我々獣医師も異常に気づけないこともあり、一方で健康な状態から時間的経過を追っていることで異常値になる前にその異常に気付けることもあります。これが、健康である可能性の高い若いころ、具体的には1~2歳くらいに一度「医療記録」を取り、わずかな変化が生じてくるタイミングを見逃さないように行う「定期健康診断」が重要となる理由なのです。
下落合、目白、椎名町エリアのイヌとネコの動物病院
聖母坂どうぶつ病院 院長 田草川